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東京地方裁判所 昭和29年(ワ)9722号 判決

原告 金城富之

被告 金元彦

主文

別紙目録〈省略〉の建物の内、壁をもつて仕切つた東側の部分建坪九坪五合の一戸は、原告の所有に属することを確定する。

被告は原告のために、東京法務局足立出張所昭和二十九年七月二十七日受附仮差押決定に基く東京地方裁判所の嘱託により被告名義に所有権の登記がなされた別紙目録の建物について、同所同番地木造ルーヒング葺平家二戸建居宅一棟建坪十六坪五合の内西側一戸家屋番号同町一二一番の一四木造ルーヒング葺平家建居宅建坪七坪と、建物表示更正登記申請手続をすべし。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、請求の原因として、「訴外寺田隆彦は、訴外秋山義雄が東京都荒川区南千住町六丁目一二一番地に建築中であつた平家建九坪の建物を昭和二十四年二月十四日秋山から買受け、その建築を完成させ、さらに昭和二十五年九月中三坪四合五勺の増築をし、平家建十二坪四合五勺の建物とした。この建物は中央からやや西寄りのところを前後に貫く壁で仕切つた一棟二戸建(それぞれが独立)のもので、西側は五坪、東側は七坪四合五勺であつたが、昭和二十五年九月一日、訴外徳山河伯事康河伯は、右東側七坪四合五勺の一戸を寺田から買受け、さらに二坪五勺の増築をしたうえ、昭和二十九年六月二十七日これを原告に売渡した。かくて原告は右東側の一戸九坪五合を所有するに至つた。その間荒川税務事務所における右建物の所有権登録名義は寺田隆彦としてあつたが、原告と康河伯、寺田隆彦との特約により、後日原告名義に所有権保存登記をすることになつていた。被告は右一棟の建物の西側の一戸(のちに二坪増築されて現在は七坪)を寺田から借りて住んでいるが、右建物を買受けたことがないのにかかわらず、昭和二十八年九月十六日荒川税務所係員に対し、右建物を同七月二十日寺田から買受けた旨虚偽の事実を申告し、係員をして家屋補充課税台帳に右七月二十日未登記売買により被告が、右建物の所有権を得た旨虚偽の記載をさせた。そして訴外光信用金庫の被告に対する右建物の仮差押決定にもとづく昭和二十九年七月二十七日の東京地方裁判所の嘱託により右建物一棟について被告のため所有権保存登記が行われた。かく右建物については別紙目録の表示で現に被告のため所有権保存登記がある。しかし右建物の内前記東側の一戸建坪九坪五合は原告の所有に属するから、その所有権の確認を求める。また原告は右東側一戸について所有権保存登記をしたいのであるが、それについては被告のための前記建物一棟の所有権保存登記がじやまになつている。被告は原告に協力して、右所有権保存登記の対象たる建物について、木造ルーヒング葺平家二戸建一棟建坪十六坪五合の内、西側一戸家屋番号同町一二一番の一四木造ルーヒング葺平家建居宅建坪七坪(原告所有の部分を除いた部分)と建物表示更正登記申請手続をする義務がある。よつて被告に対し、主文のとおり判決を求める。」と述べた。

被告は、原告の請求を棄却する旨の判決を求め、「原告主張の事実は認める。」と答弁した。

理由

原告主張の事実は、被告が認めている。この事実によると、原告の請求はもつともである、と考える。

本件については、いろいろむずかしい法律問題があるが、被告が特に争つていないから、ごく簡単に当裁判所の意見を述べるにとどめる。

(一)確認の利益について。

本件建物中主文第一項の一戸が原告の所有に属することは被告が認めているが、この部分をも含めて被告名義に建物の所有権保存登記がされている本件のような場合においては、原告が右一戸の所有権確認を訴求するについての確認の利益はある、と考える。

(二)更正登記請求について。

(イ)登記請求権は、登記面と実体上の権利関係とが符合しない場合に、これを合致させるために認められた権利である。この場合登記権利者はその登記をすることにより直接利益を受ける者であり登記義務者はその登記をすることにより直接不利益を受ける者である。

(ロ)甲所有の建物について乙が不正に所有権保存登記を経た場合には、甲は乙に対してその所有権保存登記の抹消登記請求権を取得するものと解するのが相当である。登記面と実体上の権利関係とが符合せず、そして右登記の抹消登記をすることは登記面と実体上の権利(甲の所有権)とを合致させるに必要なことであるからである。(この結論は大審院判例の認めるところである。)

(ハ)一棟(事実上は二戸)の建物中独立して所有権の客体になる一戸が甲の所有に属するに拘らず、乙がこの部分をも含めて勝手に右一棟全部について所有権保存登記を経た場合においても、以上の道理はそのままあてはまる。実体上の権利という面だけからみると、甲は乙に対し、右一棟中甲所有の右一戸の部分につき抹消登記請求権を有するものといわなければならない。

(ニ)しかし、登記手続の面からみると、例えば平家一棟建坪二十五坪の所有権保存登記のうち十三坪の部分につき抹消登記をするということは許されないのではあるまいか。こういう意味においては登記不可分である、と考える(不動産登記法第六六条の或る登記事項のみの抹消というのはこのような場合を指すのではあるまい。)

(ホ)それでは実体上肯定される建物所有権保存登記中の一部の抹消ということを登記手続の上で実現する方法は如何。それは不動産登記法第六三条、六三条ノ二、六四条等によつて認められている更正登記手続以外には考えられない。甲は、錯誤に基く登記なりとして、乙を相手取つて、更正登記手続を訴求することができるものと解するのが相当である。

(ヘ)本件の場合、原告は被告に対し本件建物一棟全部の抹消登記を訴求することができるのではないかという意見、あるいは原告は主文第一項の確認判決を代位原因を証する書面として本件建物一棟に関する被告名義の保存登記を西側一戸七坪に関する保存登記に更正する旨の代位登記をすることができるではないかという意見が出ることが考えられるが、当裁判所は詳論をさけるが、そのいずれをもとらない。

以上の次第であるから、原告の請求を認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 新村義広)

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